教師に絶対読んで欲しい本シリーズ『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治 新潮社

Monday, 11 November 2019

書評

  タイトルやケーキの切り方の絵がインパクトがあって前から気になってましたが、内容が重そうで手にとれませんでした。先日時間があったんで本屋で立ち読みしようと本書を手に取り、前書きを読んで、「これは買はなくては」と即決した本です。

 「なぜこれを買わなくては」と思ったのかというと、この著者が「評論家」ではなく、現場で何年もこの問題に向き合ってきた現場人だからです。前書きには、それまで勤めていた精神科病院を辞めてまで、障害のある非行少年たちのいる医療少年院に異動したとあります。わざわざ苦労するであろう新たな場所にいくわけですから相当な情熱と使命感のある方でしょう。買わないわけにはいきません。以下、特に心に残っているところです。(「」の引用部分は若干編集をしていますので、本文通りではありません)

「教育の敗北」
 「本来守られるべき子供たちが、虐待を受け、いじめを受け、加害者になり、少年院にいくというのは教育の敗北といえる」という言葉は非常に重い言葉です。
褒める教育への警鐘
  筆者は本書で2度にわたり、「知的・発達障害をもった生徒を褒める教育」の危険性を訴えています。「現在の支援スタイルは、褒めて自信をつけさせるといったことがよく言われるが、苦手なことをそれ以上させないのはとても恐ろしいこと。本人が『苦痛だから』という理由でそれをやらせないなら、子どもの可能性を潰していることになる。ある意味、支援者が障害を作り出している。そういう子たちは根本的な注意力や集中力がないので、結局何をやってもうまくいかない。
  私自身、中学校で働いていて、こういう生徒を何人か見てきました。今も見ています。教員は根本的な考え方を変えなければいけません。世間に蔓延る「褒める教育」がいかにその場しのぎで無責任なことかを知らないといけません。これではただの問題の先延ばしなのです。

 社会面を身につけさせる系統だったプログラムが学校教育にないのは大問題
  筆者は、「社会性を身につけさせることが学校教育の最大の責務」と言っています。どの教員も、そのことはなんとなくわかっているはずなのに、実際には教科指導でいっぱいいっぱいになっています。社会性とは、「対人スキル、感情コントロール、対人マナー、問題解決能力といった、社会で生きていくのに欠かせない能力」です。普通の生徒は、集団生活の中で自然と身につけていくものですが、障害のある生徒は、ひとつずつ教えられないとわからないというのです。

 非行少年たちを更生させうる強力な因子
 少年院に入っても、なかなか変わらない生徒がいる一方で、実際に変わっていく生徒たちも一定量います。彼らが変わろうと思えた理由として、以下のものが挙げられています。

・家族のありがたみや苦しみがわかったとき
・相手の視点で自分のしたことを振り返れたとき
・将来の目標が決まったとき
・信用できる人に会えたとき
・人と話す自信がついたとき
・勉強がわかったとき
・大切な役割を任されたとき
・物事に集中できるようになったとき
・最後まで諦めずにやろうと思ったとき
・集団生活の中で自分の姿に気づいたとき
 
 どうでしょうか。私はこれを読んだ時涙が出そうになりました。どれも成長の過程で当たり前に経験するようなことを、ただひたすらに彼らは求めているのです。これらはどれも学校教育の中で経験させねばならないことではないでしょうか。

感想、まとめ

 中学校教員として、身につまされる思いがしました。私も教員という立場ではありますが、現場でこのような生徒らと向き合っているので、「クラスの下から5人」の大変さがよくわかります。彼らが将来社会の一員として生きる力を身につけさせているかと聞かれれば、とても頷くことはできません。そういう子たちを早期発見して救うことができるのは、最前線で生徒に向き合う我々教員です。それなのになぜ、「褒める教育」で問題を先送りにしてしまうようなことをしているのか。それは「当事者意識」がかけているからではないでしょうか。障害のある本人がいかに苦しんでいるかをちゃんと理解し、必要ならば認知力から鍛えてやらねばなりません。そして、社会性を身につけることのできるプログラムを早急に研究せねばいけません。