教師に絶対読んでほしいシリーズ『京大変人講座』

Monday 20 January 2020

学校教育 教員採用 書評

 京大の総長である山極先生が「ゴリラと10ヶ月生活をともにしたぶっとんだ変人である」というところで、もう「ああ京大に行きたかった」と思わされた。身近で興味深い事項を、「変人」の教授らが解き明かしていく。目から鱗ものである。

 私が最も心を鷲掴みにされた言葉は本書冒頭の対談で登場する、言葉
「Together and Alone」(違う道を一緒に歩く)
 である。なんとも深い言葉で、極上の表現である。日本は同調圧力が強い社会であるが、その中で周りに合わせすぎて素の自分を見失ってはいけない。しかし一方で、周りを見ずに自分一人の殻に閉じこもってしまうこともよくない。オープンでありつつ、しっかりした個を確立せよ。このようなメッセージが的確に表されている。

 酸素は濃度が高ければいいというわけではない

 本書は各分野の専門家がそれぞれ講義形式で興味深い内容を教えてくれる。特に最初の2つの章が面白かった。1つ目は、「毒ガスに満ちた奇妙な惑星へようこそ」(小木曽哲)である。これによれば、酸素は濃度が高すぎると非常に危険なのだという。空気中には大体20%の酸素があり、残りはほぼ窒素である。私は今まで「何でこんな意味のない窒素なるものが空気の大半を占めているのだろう、全部酸素だったよかったのに」と、考えていた。最近、酸素スプレーなるものが流行っているというのをテレビでみた。これを吸引することによって、頭がスッキリするといっていた。酸素にはいいイメージしかなかった。しかし、小木曽先生によれば、酸素は非常に危険なのだという。濃度100%の酸素ボンベの噴射口に紙のような燃えるものを置くと、気温20度程で自然発火してしまうということだった。そして、無意味だと思っていた窒素だが、実はこの窒素が酸素をいいあんばいに薄めていてくれているということだった。完全に私の酸素観が変わってしまった。

「サービス」で客を満足させようとすればするほど 、かえって客は満足しなくなるという

 もう1つ特に面白かったのが、「なぜ寿司屋のおやじは怒っているのか」(山内裕)である。「サービス」で客を満足させようとすればするほど 、かえって客は満足しなくなるという弁証法の説明が目から鱗であった。高級寿司屋のおやじがぶすっとした顔で、客が注文を頼む前からメニューも見せずに「お飲み物は何にします」と尋ねる。何があるか、値段はいかほどなのかわからない中で大抵の客はとまどい、「ビールで」と親父の顔色を伺いながら頼むという。その時点でおやじと客の間には上下関係が成り立ってしまっている。そのために、そのあと常連になっておやじに顔を覚えてもらうと格別に嬉しくなるらしい。一方で、「お客様は神様型サービス」だと、その名の通り客は上の立場であるので、下の立場のものからのサービスがどんなに優れていても、快感を感じにくくなるということであった。
 
なぜ教師に絶対読んでほしいシリーズに加えたか。
 地に足のついた常識人ではなく、当たり前に思われていることやどうでもいいことなどにとことん向き合い突き詰めて考えるぶっとんだ「変人」になれというのが本書のメッセージだ。「変人」になるためには、全てのことに「なぜ?」と疑問をさし挟むのがいい本書は勧める。教員の世界は、高い志をもって自己で研鑽する覚悟がないと、考え方が画一的、前例踏襲主義的になりがちである。この本を読んで、あらゆることに疑問を持ち自分の頭で考えることの重要さを認識してほしい。