レビュー『本当の武士道とは何か』菅野覚明著

Monday 30 December 2019

書評

 先日、新宿の紀伊国屋に本を買いに行った時、ちょうどその日(12月27日)が発売日の本書を新書コーナーで見つけました。武士道の本はいくつか読んできましたが、本書は著者が東大教授の「日本倫理思想史」専門とガチの方だったのに加え、数ページ読んで面白かったのでこれに決めました。以下、いくつか印象に残ったところです。

・軍隊で掃除を徹底的にやらされるのは、戦闘とは「見る」戦いだからだという。ホコ
 リをひとつ見逃すようでは、敵の狙いを見落としてしまう。
・武士の奥義とは、いざ戦闘の場において、きっぱりと一切のことを断念することであ
 る。自分の命を投げ打ったものが、結局命を預かるのである。
・優れた武芸者は、タイミングのあった動きを美しいと感じる。タイミングが強さを
 導く。
・文武両道の「文」は、情操的な力のこと。情操的な力は言い換えれば、もののあはれ
 がわかる心。こういった精神性を養うために、由緒ある武士たちは、詩歌管弦をや
 った。
・深い情愛を持った武士は強い。深く愛した人やものを断念するからこそ、その分、強
 くなる。だから強くなるために、身のまわりのものでも何でも大切に扱うようにと教
 えられた。
・隠すべきこと(情報)は徹底的に隠すが、示すべきことは明確に示すのが、優れたリ
 ーダーシップの1要素。
・武士道の敵というのは、簡潔にいうと、精神的な価値よりも物質的価値を上位におこ
 うとする思想。武士の間では「義」が大事にされたが、「義」の反対は「利」。明治
 時代以降、利を追求する功利主義が西洋から流入し、日本人の価値観を大きく揺さぶ
 っている。
・しかし日本人がずっと求めてきたのは、サザエさんやちびまるこちゃんに見られるよ
 うな、「一家団欒のささやかな幸せ」である。


 私の祖母は、私が大学受験や就活でいっぱいいっぱいの時、事あるごとに「人生健康で普通が一番、無理をしないように」といって、気持ちを和ませてくれました。本書にもあるような家族との暮らしで感じられる「ささやかな幸せ」をただ感謝して過ごす人生を送りたいです。