カリキュラムマネジメントを成功させるための4つの条件

Tuesday 3 December 2019

学校教育

カリキュラムマネジメントを成功させるための4つの条件

  カリキュラムマネジメントを成功させるためには、最低4つの要素が必要なことがエビデンスとして示されています。

①専門的な学びのコミュニティ
②①のサポートやアカウンタビリティとしての機能をもつ外部機関
③学校内での知識共有メカニズム 
④リーダーシップ

です。これらの4つの要素に関して、以下詳しく見ていこうと思います。


①専門的な学びのコミュニティ

 School-Based Curriculum Managementで著名なStenhouseはかつて、「教員の成長なくしてカリキュラム発展はない」と述べました。カリキュラムマネジメントの成功の評価は、生徒の学びの成果とともに、学校文化にどの程度教員同士の学びが根付いているかによって判断されるべきだとしています。カリキュラム発展を成功させるには教員の研鑽が不可欠です。しかし、教員に学び続けることや授業改善を促すのは容易ではありません。というのも教員には一般的に自分自身のやり方を守ろうとする性質があるからです。そこで効果的なのが、カリキュラムデザインチームを組織することです。このカリキュラムデザインチームを作ることが、教員の能力向上と革新的なカリキュラムの両方に肯定的な影響を与えるということがわかっています。このカリマネチームは、現状の自校の生徒分析、卒業までに身につけさせたい力の設定、そのためのカリキュラム作成、カリキュラム評価(分析、次年度への改善点洗い出しなど)までを一貫して行います。


②外部機関

 カリマネというと、学校内の環境や活動に焦点があてられがちですが、同時に教員に対するサポートやアカウンタビリティとして機能する外部機関が不可欠であることがわかっています。本来学校の教育課程は社会の変化に応じて常に改善されるべきものですが、学校というのは保守的な性質をもっているので、なかなか自らは変わろうとしません。そのため、外部機関の働きかけが必要になってくるのです。この外部機関が適切に機能するには2つの条件があります。

(1)その目的が教員の職能開発であるということ。
 
 この外部機関の主要目的が教員の評価になってしまうと、長期的には決して良い効果を生み出さないということが分かっています。カリキュラム作成並びにそれを発展させていくには5つの下位スキルが必要になります。すなわち、分析、デザイン、改善、実施、評価です。この中で特に、分析と評価において自信がないという教員が多いので、これらの部分を重点的にサポートする必要があります。

(2) 必要ならば状況改善のために実際に干渉する力を有するということ。

 中にはサポートや支援があっても、状況を改善できないことがあります。そのときには、その外部機関がある程度の強制力をもって、変化を起こす必要があります。例えば不適格教員とする者がいれば、その教員に対して別で研修を行わせる権限をもつなどすることです。
 このようにサポートと干渉という2つの条件をバランスよく行う外部機関がカリマネには不可欠です。日本で考えるなら、各自治体の教育委員会や教職センター、国立大学や教職大学院などがこれになり得るでしょう。


③学校内での知識共有システム

  カリキュラム作成とその発展においては基本的に全教員が関わることが重要です。その知識共有システムに関して、Lawton (1983, p.68) は3つのレベルでの学校職員の会議をもつことを提示しています。
 1つ目は各教科主任や全体のカリキュラム責任者、管理職が組織する会議です。この会議の目的は、時間割や教員配置、学校内の教員研修会に関してなどの運営面に関して議論したり、教科を超えた横断的な取り組みについて協議したりします。
 2つ目は教科毎の会議で、使用教材、扱う単元の順番や試験範囲、評価方法などを協議します。
 3つ目は学校の全スタッフが参加する会議で、決まったことを全スタッフで共有するためのものです。
 多くの教員はカリキュラムデザインやカリキュラムの一貫性に関して知識が不足しているので、全レベルの会議で共通のカリキュラムのフレームワークやテンプレートを利用するのがよいと分かっています。


④リーダーシップ

 リーダーシップもまた効果的なカリマネを実施するのに欠かせないものです。
 まず学校内のトップである校長が適切にリーダーシップを発揮しなくてはいけません。成功している校長には共通する行動があるといいます。
1) 教員間のコミュニケーションを円滑にする 
2) オープンで明るい雰囲気を作る
3) 教員とともにビジョンを作る 
4) 教員研修に関わる 
5) 教員たちにとって模範的な行動をする

 の5つです。

 さらにカリマネは新たな挑戦によって始まることから、校長が教員たちにリスクを冒して挑戦することを後押しする必要があるといいます。そうすれば教員たちは自主的に協力して学び合う文化を作っていくのです。PISAのSchleicher (2014)も、校長が各教員とその理念を共有し、教員たちが新しいことに挑戦することを支援する姿勢がなければ、カリマネはむしろ逆効果にさえなりうると述べています。

 カリマネと相性がいいリーダーシップスタイルは分散型リーダーシップです。このスタイルは6つの特徴をもちます。すなわち

1) それぞれの階層で責任が分担される 
2) 役職に過度に捉われない 
3) 情熱、向上心 
4) チームワーク、協調性 
5) プロフェッシナルのディスコース 
6)エビデンスに基づいた意思決定

です。分散型リーダーシップは責任を押し付け合うのではなく、個々の力を信じ期待することによって彼らを勇気付け、彼ら一人一人のリーダーシップ力を向上させます。このように校長のトップダウンと個々の教員のリーダーシップを融合させたものを、分散型教育的リーダーシップ(distributed instructive leadership)と呼んでいます。




参考文献
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