高校の授業を民間試験を使わずにアクティブにする方法

Saturday 2 November 2019

学校教育

 これまで公立中学校で英語教師をしてきましたが、去年初めて高校1,3年生(私学進学高校の早慶クラス)の授業を持ちました。そこで感じたことは、同じ英語教師の筈なのに、求められる授業が全然違うということです。違いを端的に言えば、中学はかなりアクティブラーニングをやっているのに対して、高校では知識暗記型授業であるということです。勿論そこには、大学入試があること、そして高校では習熟度がより広がるため一概に「高校の授業」とくくるのは無理があるかもしれませんが、それでも、多くの高校の授業は確かに時代に合わせて少し変わらないととも思います。ただ、変わらないとと言っても、そう簡単ではないと思います。大学入試が変われば、教え方も変わると楽観的に言う人もいますが、どうでしょうか。今回(2019年11月1日)、民間試験導入が延長されることが発表されました。ここで文科省は改めてなぜ、民間試験を導入すべきなのか考えなければいけません。仮にそれが高校の授業を変える為であるなら、私は反対です。なぜなら他にもっといい方法があるからです。

 両方の校種を経験した自分が思うに、1番手っ取り早く、余計なコストを生まずに高校教師の意識改革をするには、中学校を経験させることだと思います。東京都のように、教員採用において中高の垣根なく募集している自治体はいくつかありますが、それにも関わらず、教員はほぼ始めに赴任した校種でずっと異動し続けるのはせっかくの絶好の機会を与えられるチャンスを無駄にしているなと思います。中学で英語教師をやれば、ただ文法説明するだけの授業じゃとても生徒がついてこないことを実感します。そして同時に、公立中学は学力差が多様なので、よくできる生徒から勉強があまり得意でない生徒まですべての生徒をある程度知的に満足させなければいけないという難しさもあります(高校との違い)。これはかなりのティーチングスキルが必要です。これを早いうちに全英語教員に学ばせるべきです。

 中学校の教員は、一方でどうしても英語の専門的知識が高校教員にかなわないという人が多いと思います。中学教員にとっても、高校で教えるにはある程度知識を見直す時間が必要です。以前、高校教員らと中学教員合同の選抜海外研修に参加したことがありました。そのとき、英語のスピーキング力において、相対的に高校教員のほうが英語力という点では高いのを実感しました。でもこれはある意味当然のことだと思います。なぜなら高校教員は普段から教材研究を通してより高度な英語を教えるための勉強をしているからです。「それでは中学教員も自分で勉強すればいいでしょう」と言われるかもしれませんが、まず忙しさが全然違います。これは言い訳でもなんでもなく、今まであった高校の先生と話すと、大体「中学の先生は高校とは比べ物にならないくらい大変だね。私にはできないよ」と同情されてきたからわかります。授業の持ち数だって、私が担任もやっていた時は総合含めて週22時間授業がありましたが、同年代の高校教員は16時間くらいといっていました。週6時間の差ってかなりの差です。また、中学では授業力よりも生徒指導力が評価されるように思います。職員室で授業準備していると、早く教室に行ってと言われます。それはそれでしょうがないのですが、中学校教諭も高校に行って知識をブラッシュアップする必要があるでしょう。

 このように両者にメリットがあるのになぜやらないのか。考えられるのは、教育委員会が面倒なことはしたくない(中高の管轄が違う、新しいことをやりたがらないなど)、もしくは教員の反発があるからでしょうか。前者に関しては、高校は今や義務教育化しているので、中高の管轄の垣根を取って6年間で見るべきでしょう、後者に関しては、教員というのは基本保守的で変わりたがらない性質があるものです(私も含めて)。だからこそまだ柔軟に変わりやすい1校目か2校目で全教員を中学で経験させるべきです。その後は、能力適正に合わせて校種を絞ってもいいのではないでしょうか。

 現在の英語入試改革では、民間に委ねるというまさに新自由主義的政策が進められています。高校授業改革という名のもとにやるなら、止めたほうがいいでしょう。改革によって生じる新たな問題の方が大きくなるのは諸外国の教育をみても明らかです。なるべくコストをかけずに、かつ大胆に教員異動の制度設計を見直す時期に来ているのではないでしょうか。