こんにちは。今回はイングランドのナショナルカリキュラム(NC)(いわゆる日本の学習指導要領)から日本の教育に与えられる示唆について考えます。
イングランドのNCは日本の学習指導要領と比べると記述量が少なくなっています。日本では割と細かく何をやるかが具体的に指示されていて、さらに検定教科書まで与えられて、それに沿って授業を進めていけば学習事項を網羅できるようになっています。一方イングランドのNCではあまり細かく内容を規定していません。その背景には専門職の教員へ歴史的文化的背景があるように思います。私は英の教員数人にインタビューしましたが、「何を教えるかは専門職の教員の裁量で決めることであって、国に支持されるものではない。」という人が多かったです。検定教科書というのは当然ありません。
イングランドの教員のカリキュラムメイキング
ではどうやって彼らはカリキュラムを作るのか。そのプロセスはまず、教科ごとに、教科主任を中心に「生徒に身につけさせたい力」を考えていきます。もちろんその際、NCも確認しています。そしてそれを身につけさせるにはどのような教材を使うのがいいのかという風に考え、具体的な指導計画、そしてレッスンプランに落としこんでいくのです。このようにカリキュラムにおいて「どういう人間になってほしいか」「そのために何をどうやって教えるか」というところから考えるのは大変ですが、何よりも大事なことです。そして教員としても、カリキュラムメイキングのスキルが必然と身についてくるのでよかったと思います。「inquiry問い」「evidence証拠、事実」「communicationコミュニケーション」
ではどうやって少ない記述量のNCで、学校ごとにばらばらなことをやってしまうことを防いでいるのか。『Seven myths about education』(Daisy Christodoulou著)によれば、NCにおいて、全ての教科の記述におけるキーワードは「inquiry問い」「evidence証拠、事実」「communicationコミュニケーション」だといいます。そして、「focus on the key concepts and processes that underlie each subject キーコンセプト、各教科特有のプロセス」をより強調しているといいます。つまり、これらがあれば、各教科の教員がクラスでの生徒の学びを正しい方向に導けると想定しているのです。なかなか賢いです。日本の教員の課題は「カリキュラムメイキングスキル」
日本は学習指導要領と検定教科書によって全国均質な学びを実現させてきました。それはこれまでの産業構造においては素晴らしい効果を発揮しました。しかしこれからの時代、グローバル化がさらに進み、テクノロジーの進歩が信じられない速度で実現されていく時代においては、いわゆる21世紀型スキルという予測不能で答えのない課題に他人と協働しながら対応できる力が求められます。そのためには教員自身がその地域社会の課題を見つけ、その解決策を生徒ともに考えていくことが大切になります。そうするには国に言われたことを教えているだけではなく、時には教員同士で協働していちからカリキュラムを作るスキルが必要になってくるのです。そのときにキーとなるのが、inquiry問い」「evidence証拠、事実」「communicationコミュニケーション」そして、「focus on the key concepts and processes that underlie each subject キーコンセプト、各教科特有のプロセス」だといえるのです。余談
しかしもちろんどんなによく設計したシステムでも、想定していたものと違うものがでてくることはよくあることです。イングランドの教育システム、そしてNCのシステムは、教員自身にカリキュラムメイキングスキルをつけさせようとおもっていたかもしれませんが、実際には少なくない学校が、カリキュラム作成を民間会社に外注するという事態が起きているようです。それは単に教員が怠惰であるというところにあるわけでなく、そういった民間会社自体がGCSE(高校入試)やAレベル(大学入試)を直接作成しているということにその原因があるのかもしれません。そうしたテスト作成を行なっている民間会社は3年分の学習内容や教材とカリキュラムの時間割などをセットで販売し、学校はそれを買うのです。生徒や保護者から見ても、テスト作成会社のカリキュラムの方がいち先生が作る学習課題よりも大事だと考えるようになるでしょう。そうやって本来英政府が意図していたこととはちがう事態が起こっているのです。
No comments:
Post a Comment