リストカットをしてしまう生徒にどう対応すべきか考える中で、偶然『死に至る病~あなたを蝕む愛着障害の脅威』を手に取った。そして読みながら、本書がまさに自分が求めていたものだということに気づいた。著者の岡田尊司先生は、精神科医で、現場で困難な課題を抱える若者らに向き合ってきた方である。以下は本書の中で特に印象深かった部分である。
・喜びをあたえる脳内物質は、
エンドルフィン:食欲や性欲が満たされた時生じる
ドーパミン:報酬系の仕組みで、困難な目的を達成した時生じる。麻薬はこれを悪用。
オキシトシン:愛着から生まれ、安定した感情につながる。
どれかが不足すると、それを別のふたつで補う。例えば、オキシトシンが不足していると、暴飲暴食してエンドルフィンを増やしたり、難関校の合格のために必死に勉強し、ドーパミンを増やしたりなどである。オキシトシンだけが、努力のいる行為やそれによって達成させられる結果を必要とせずに、ただありのままの自分でいるだけで、無条件に与えられる満足で在り、それゆえに基本的安心感と呼ばれている。
・いつも踏ん張って、落ちないように頑張っている間は、どうにか生きていられるが、頑張り続ける気力さえ無くしてしまったとき、もはやその人を転落から守ってくれる支えは存在しない。それが、愛着障害が、死に至る病だという意味なのである。
・愛着を脅かす代表的な要因は、虐待、ネグレクト、養育者の交代
・女性の社会進出により母親との愛着が不十分な子どもが増加したことが1つの要因。
・愛着障害の人が抱えやすい最大の困難は、子育てに対して意欲がもてない、愛せないこと。
・愛着には合理主義的な効率論は通用しない。世話を省いて、美味しいところだけとろうとしても、後で必ずそのつけがまわってくる。自らどれだけ手を汚したかが、正直に現れるのだ。
・安定した愛着を形成するためにの臨界期は2つあり、ひとつは生後6ヶ月から1年半、もう1つは生まれてから数時間。すぐに新生児室にいれるのはいいとはいえない。
・宗教の1つの役割は、愛着から我々を守ること、つまり「死に至る病」に救いを用意することにあったかもしれない。等しく神の愛が与えらえるという信仰は、欠落を補う強力な装置であった。
・ある意味、産業革命以降の変化は、愛着に土台を置く勇気的な社会を、利益だけを効率よく生み出す、機械の歯車のような無機的社会に変えてきた。その行き着く先は、最後の砦であった親子の絆さえ、ばらばらに粉砕してしまうことだ。
・愛着障害の恐ろしさは、時限爆弾のように遅れてスイッチが入るところ。
・愛着障害こそが、最終的に人類の前に立ちはだかる病であり、われわれを不幸にする究極の原因になっている。
・偶然治ったケースをみると、①親が変わった ②親元を離れて信頼できる人に会った ③本人がどん底経験し、諦めがついた。
・問題を抱える親は①その人自身がうつや気持ちのブレが大きい ②子供が好きでなく自己愛が強い ③一見すると教育熱心なようにみえるが、理想が強い
・克服するのはリハビリやトレーニングと似ている。まず支えが必要。いざ支えてくれる人の励ましの言葉など。そして本人の気力や忍耐力。最後に小さな成功ステップを積み重ねていくということ。
・支えの安全地帯は、自分自身の愛着の問題を克服しているものでなければいけない。そして、ほどよい世話、ほどよい関係が大事。このほどよさは、応答性と共感性が鍵を握る。応答性は、相手が助けをもとめてきたら応答してやること。共感性は相手の立場で気持ちや意図を感じ取る能力。さらに共感性はふたつの側面がある。気持ちを共有し、同調するもので、情緒的共感性と、相手の気持ちや意図を正確に理解する能力で、認知的共感性とよばれる。愛着の安定化には、近年後者の力を高めるメンタライゼーションが大事だということがわかってきた。これが弱いと、相手の言動の悪い場面だけをみて傷ついてしまうことがある。
・母親を変えるアプローチが有効だとわかっている。特にメンタライゼーションによって、親が安全基地になれるようにサポートを行うことが効果的。
・愛着とは、世話をする仕組み。世話の省略化が進めば進むほど、愛着は希薄で薄っぺらなものになる。
これはぜひとも、全国民に読んでいただきたいものです。少なくとも、教育関係者は必読のものだと思いました。
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